2023年11月29日。デザイナーの尾花さんとフォトグラファーの福森さんと私、3名でオンラインミーティングをした。
webマガジン「knot」のビジュアルをどこでどんなふうに撮るか。
私から「この場所を撮ってほしい」と指定するよりは、実際に福森さんと尾花さんに地域を巡ってもらい、好きなように撮ってほしい。美しいと思う場所を、福森さんの視点で探してほしい。そんなようなお願いをした。
基本は好きに撮ってもらっていいけれど、ひとつだけ、これは絶対に撮ってほしいと思っていたものがあった。
それが「鉄塔」。
私が暮らす富岡町上手岡地区には、「新福島変電所」がある。かつて、東北随一といわれた、大規模な変電所。福島第一原子力発電所・第二原子力発電所とつながり、東京へ送電していた「新福島変電所」。
私が生まれた頃には、すでにそこにあった。あるのが当たり前で、疑問など感じたこともなかった。
夜でも煌々と明かりがついていたため、夏になるとカブトムシやクワガタが寄ってくる。私にとって虫捕りといえば、朝方の雑木林ではなく、夜の変電所だった。
鉄塔も、暮らしの中の風景として、ずっとそこにあった。
2011年3月11日の地震で新福島変電所も被害を受け、福島第一原子力発電所に送電できなくなってしまったことが、電源喪失の遠因となったそうだ。
新福島変電所には負のイメージがつきまとう。そして鉄塔も。
けれど、私はどうしても、この鉄塔を撮って欲しかった。
この鉄塔が、私の原風景だから。
田んぼの中に巨人のように聳え立つ鉄塔。鉄塔を下から見上げたときの空の色。鉄の木が生えているかのように、山に連なる姿。記憶の中の鉄塔が、今も変わらず、そこに、ある。
「この景色が、私の原風景なんです。だから、鉄塔を撮ってほしい。ただ、そこにあるものとして、撮ってほしいんです」
私にとっては、生まれた時から、当たり前にそこにあるもの。私の記憶の中の古里と、今目に映る古里が、交錯し重なる、この風景を撮ってほしかった。
2024年2月9日。尾花さんを介して、福森さんが撮った写真が送られてきた。富岡町を巡り撮影してくれた数十枚の写真の中に、夕暮れの鉄塔の写真を見た。
きれいだ、と思った。
福森翔一
Instagram:@shoichi_fukumori