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東北各地をマッピングするカルチャー誌『SPOT(s)』創刊

2024.03.23

「東北にも、尖った人はたくさんいるし、素敵なお店もたくさんあるんですよね。そんな人だったり、お店だったり、アイテムだったりを紹介するカルチャー誌を作りたいんです」

 

いわきを拠点にカメラマンとして活動している鈴木宇宙さんから「なおちゃんと3人でランチしませんか?」と連絡いただいたのが昨年の9月末。実はすでに宇宙さんのパートナーである草野菜央さんともランチの約束をしていたので「じゃあ、3人でランチしましょ~」と決まり、いわき市のタイ料理屋さんで私はパッタイを、宇宙さんはグリーンカレーを、なおさんはなんだったかな…忘れちゃったけど、何やら美味しいものを食べた。

宇宙さんは辛いものがそんなに得意じゃないのにカレーを頼み、「辛い、辛い」と言いながら食べていたのを覚えている。私となおさんは、そんな宇宙さんを見て、笑いながらご飯を平らげた。

少し落ち着いた頃、宇宙さんがソワソワしだし、「まやさんにあの話した?」となおさんに問いかけた。なおさんは「まだ。今はその話はいいから!」と言いながらも、一瞬何か考え込んだ後に、冒頭の話をしてくれた。

話を聞いてびっくり。なぜなら、ちょうど私もWEBメディア『knot』を創刊すべく動き出していた時期だったし、しかも創刊予定日が『knot』は3月15日、『SPOT(s)』が3月21日と、約1週間しか違わなかったから。

さらに、『knot』で取り上げるのは福島県浜通りという限られた地域の“普通の人たち”であるのに対し、『SPOT(s)』はカバー範囲が東北と広域で、取り上げる内容も地域で尖った活動をしている人やお店という違いはあるものの、“自分の地元を見つめ直し、発掘し、発信する”というベクトルは同じ。

『knot』の構想を話すと、「それって面白いの?」「誰が読むの?」という否定的な意見も頂いていて、ちょっとシュンとしていた時期でもあったから、私以外にもこの地域でチャレンジしようとしている人たちがいる(しかもこんな近くにいた!)ということが、単純に嬉しかった。

「実は私も、WEBマガジンを作ろうと思ってて。こんなこともあるんですね~!」とキャッキャしていると、「それで、インタビューをまやさんにお願いできないかな?と思ってまして……」と。一瞬ドキッとした。地元に戻ってから何本か、インタビューや取材をして記事を書くという仕事は受けていたけれど、私の力量不足などもあり、いろいろ思うところあってライターとしての仕事はもう受けるのをやめようと考えていたから。自分で文章を書くのは『knot』だけにしようと思っていた。しばらくの間は、自分が書きたいものを書いて、自分の責任で発信していきたかった。

そう、心に決めていたはずなのに……。おふたりの思いをお聞きして、もう気持ちがグラついているではないか。「一緒にやってみたい」と思った、それが正直な気持ち。でも、ライター業はしばらくお休みしたい、それも本心。「う~……。あ~……。えっとぉ~……」とかモニョモニョ言いながら、その場でしばらく悩んだ。そして、意を決して「お店や施設紹介だったりは、私は書けません。ただ、“人”にフォーカスしたものだったら、書きます」とお伝えした。

取材対象を選り好みするなんて、プロのライターとしては失格。それは重々承知。でも、仕事をひたすらこなすうちに、子どもの頃、あんなに大好きだった「書く」ということが苦しくなっていた。今は、自分の書きたいものだけ書いて、また「書くことが好き!」と言える自分に戻りたい。

そんな私のわがままな発言にも「その人が何を考えて、その地で活動しているかを聞きたいので、それで構いません!」というおふたりのお言葉をいただき、「私でよかったら、お手伝いさせてください」と、創刊号のインタビュー記事制作をお引き受けした。

それから、なおさんとオンラインで打ち合わせをしながら方向性などお聞きして、あっという間にインタビュー当日を迎えた。午前中に「ALAYA」戸田宗輝さん、お昼休憩を挟んで午後に翻訳家のシルヴィア・ギャラハーさんにインタビュー。

文字数は戸田さんが2500文字程度、シルヴィアさんが1300文字程度と決まっていたので、それぞれだいたい30~40分ほどインタビューすれば文字数は埋まるという腹づもりでいた。が、いざインタビューをスタートすると、おふたりとも話がめちゃくちゃ面白い。次から次へと聞きたいことが溢れてくる。「なんで?どうして?」と根掘り葉掘り聞いてしまった。気がつけば、戸田さんには1時間半以上、シルヴィアさんにも1時間20分もインタビューしていた。

とにかく楽しかった。自分の中にはなかった知識や経験、「それでそれで?」と聞きたくなる、歩んできた人生の面白さ、巡り合わせ。おふたりとも初めて会う私に、いろんな話をしてくださった。

欲を言うなら、もっともっと聞いてみたかった。本当に心から楽しかった。インタビューって、こんなに楽しいものだったっけ? 子どもの頃、遊びに夢中になったあの感じ。終わってしまうのが少し寂しいような……。戸田さん、シルヴィアさんにも「インタビュー楽しかった」と言っていただき、ホクホク顔で終了。帰りにひとりで入った焼き鳥屋で飲んだ日本酒が、美味しかった。

それから文字起こしをしてもらって数日後、届いたその分量に慄いた(私の場合、文字起こしは基本的に外注しています)。それぞれA4でたっぷり30ページ以上ある。ここから、2500文字と1300文字に落とし込んでいくのか。え……、まじか……。何はともあれ、書き出そう。書いていくうちになんとかなるさと、いわきのスタバまで行って、気合を入れて書いた。面白い、面白いぞ。書いてても面白いぞ。インタビューした時の興奮が蘇ってきて、めちゃくちゃ筆が進んだ。削れるところは削らないと分量オーバーすることが明らかだったので、断腸の思いでバサっと削った話もたくさんある。「この話は外せない」「この部分も絶対入れたい」と、自分なりに取捨選択して書いていたつもりが、気がつくと6000文字を超えていた。

なおさんと宇宙さんに「戸田さんの原稿、6000文字超えてしまいました……。シルヴィアさんは600文字オーバーしています……」と連絡。本来なら、大幅に文字数オーバーするなんてありえないこと。決まった字数内で書くことも、ライターの仕事である。それなのに、もう「どの話も削りたくない。これは編集長の判断に任せるしかない」と、なおさんにぶん投げた。『SPOT(s)』として、どの部分を載せるのか、あとは煮るなり焼くなり、好きにしてください!と。

なおさんから「めちゃめちゃ原稿おもしろいです!削るところに困ります」とお返事いただいた時は、心底ホッとした。私が面白いと思ったお話と、『SPOT(s)』編集部が面白いと思う部分が同じだったということだから。結果、なおさんが『SPOT(s)』編集部として伝えたい部分を残し、いい具合に記事を削って貼ってしてくれた。さらにデザイナーの髙木市之助さんがデザインを調整してくれて、戸田さんの原稿は3500文字まで入れてくださった。シルヴィアさんの原稿も、なおさんがうまく文字数調整してくださって、デザインを崩すことなく入れてくれた。ありがたや。

私が関わったのは、2本のインタビュー記事のみだが、『SPOT(s)』は他にもお店やアイテム紹介もたくさん載っている。私も以前は雑誌を作る編集者だったから、1冊仕上げるのがどれだけ大変か、身にしみてわかる。本当にお疲れ様でした。年に3回発行するということなので、もうすでに次号に向けて動き出しているんだろう。次はどんな人やモノが紹介されるのか、とても楽しみだ。

私にインタビューすることの楽しさを改めて教えてくれた『SPOT(s)』に感謝を。ぜひ皆さんも、実際に手に取ってみてほしい。この時代に紙媒体を創刊するって、なかなか勇気のいることだ。しかも言っちゃなんだが、福島県いわき市という田舎で。すでにフリーペーパーが溢れている中で、そことはちょっと違った目線で尖った発信をしていく。“東京一極集中”からの脱却。地方でもできる、いや、地方だからこそできることを模索しながら。

文/遠藤真耶

なにが正解か何なんてわからない。自分なりに進んで、成長していく。そして、いつの間にか仲間に出会い、さらにパワーアップする。

SPOT(s)は、そんなRPGに出てきそうな人やエネルギーを補充できる場所、アイテムを紹介し、東北各地をマッピングしていくカルチャー誌です。

SPOT(s)編集部
編集:草野菜央
フォトグラファー:鈴木宇宙
デザイナー:髙木市之助

Instagram:@spotsmagazine