interview 05

東北の面白いヒトやコトをPRするために(後編)

草野菜央
フリーランスPRプランナー

前編では、菜央さんの子どもの頃~20代前半までのお話をお聞きした。後編は、現在の生業でもあるPRプランナーのことや、ライフスタイルショップ『Magic Products』のこと、今年3月に創刊したフリーマガジン『SPOT(s)』のことなど、挑戦し続ける菜央さんの姿をお送りする。

PRに至るまでの長き苦難の道

―前編からの続きになりますが、アタッシュドプレスになりたいと思ったけど諦めて、そこからPRの道に進んだんですか?

菜央さん:いや、そこに至るまでに何年もかかってます……。韓国から帰ってきてから、オンワードが運営している「ヴィア バス ストップ」っていうセレクトショップで販売員として働きました。でも、販売員をずっと仕事にするのはキツいな、ファッションが嫌いになりそうって思っちゃって。

―売ってなんぼ、みたいな?

菜央さん:うん。ノルマはなかったんですけど、やっぱり月の売り上げとかは見られるので。好きなブランドも扱ってたから楽しかったんですけど、やっぱりちょっと違うなって思って、そこを辞めていわきに戻りました。いわきに帰って英語の仕事をしたくて、派遣で働いたり。そしてまた違うなって感じて辞めて。工場とか事務とか色々やったけど、結局どれも長く続かず辞めて。何もかもうまくいかなかった。もう26~27歳になっていたので「もう終わったわ、私の人生」と思って。ここまで挫折を感じたのって人生で初めてでした。今だから笑って話せるけど。

―26~27歳って、今後の人生を考えるひとつのターニングポイントだったりしますよね。

菜央さん:そうそう。30歳がもうすぐそこまで見えてるし。この時期、鬱まではいかないけど、めちゃめちゃ落ちてましたね。周りの人たちにも「もう人生終わったわ」ってずっと言ってました。

落ち込みまくってた時期に自分の人生を振り返ってみて、私って手に職ついてないなと気づいたんですよね。私って何が好きなんだろう?ってもう一度考えてみたときに「アタッシュドプレス」が頭に浮かんできて。それで、PR系の仕事だったらまだ新しい業界だし、そこまで経歴関係なく雇ってくれるんじゃないか?って思って笑。とりあえずまた東京行こう!って決めて、そこからの人生の巻き返しがすごいんです!笑。

―生まれ変わったかのように!笑

菜央さん:気持ちを切り替えて、いわきで東京行きの資金を貯めるために働きました。そうしたら、今のパートナーの宇宙さんが現れたんです。

―ご縁って不思議ですよね。

菜央さん:ね、本当に不思議。後で調べてみたら、何もかもうまくいかなかった3年間は大殺界でした。本当にキレイに3年間大殺界に収まってた。

―大殺界を抜けたら……。

菜央さん:抜けたら、宇宙さんと出会って、そうしたらどんどん運気が上がっていくじゃないですか。気持ちも上がってきたときにアタッシュドプレスのことが頭に浮かんだので、やっぱり学校に通おうかなと思ったんですけど、私もその頃には少し大人の考えができるようになってたので笑。ファッションだけに絞っちゃうと将来的に厳しくなるような気がして、総合的なPR業務のやり方を覚えた方が応用が効くんじゃないかと思って。

―猪突猛進だった菜央さんが、ある意味大人になったんですね笑。

菜央さん:そう、知恵がついた笑。人よりだいぶ遅く知恵がつきました笑。30歳になってようやく大人になった感じ。PRをやってた知り合いに「面接ウケが悪いからできれば受けたくないんだけど、会社に入るにはどうしたらいいですか?」って相談したら、「誰かに紹介してもらったら?」って言われて。頭に浮かんだ人がいたのでその人に連絡してみたら、ベンチャーでPR会社立ち上げた人がいるから紹介するわって言ってくれて、トントン拍子に話が進んで東京のPR会社に就職が決まったんです。

―すごいですね!特にPRの経験があるわけでも、勉強したわけでもなく、何も分からない状態で雇ってもらえたってことですよね?

菜央さん:マインドが合ったら雇ってくれるような社長でした笑。入社してから大変なこともありましたけど、たくさん学ぶことができたので感謝しています。震災もありましたし、何かあったときに家族の近くにいたいなという思いもあって、「一通りスキルが身についたら東北に帰ります」って社長にも宣言してました笑。東京はたくさんPR会社があるけど、地方はまだそこまでPRという仕事が浸透していなかったので。その会社で3年半働いて、いわきにUターンしました。

PRの仕事は“関係づくり”

―「PRとは?」と聞かれたら、どう答えますか? PR=宣伝と考えている人が多い気がしますが。

菜央さん:難しいんですよね。一言では言い表せない。私もPRってなんだろう?ってずっと考えてるんですけど。マーケティングやプロモーションのようなことをすることもありますし、これがPRです!って境がなくなっているような気がします。特にフリーランスのPRとなると、本当に人それぞれ。根本的なことで言ったら“お友達づくり”かなと思います。

企業やブランドがお客さんに向けて何かを発信するじゃないですか。発信するだけだと“宣伝”なんですよね。PRは、発信するときになぜそのお客さんにとってこの商品が良いのか、お客さんへのメリットを考えて伝えます。お客さん側も、だからこの製品は私にとって良いものなんだと感じて購入してくれる。そこで企業とお客さんとの間でコミュニケーションが生まれるんです。そんな“関係づくり”がPRかなって思ってます。「この製品や技術はあなたのためのものですよ」と伝えて、受け取った側も「私、この製品好きです」と双方向のコミュニケーションが生まれて、それが繋がっていく。そんな関係性を目指すための活動。プレスリリースを打つのはもちろん、お客さんと直接繋がれるように、イベントを開催したりもします。

東京はメディア露出がメインになっていることも多いけど、根本的には関係値を作る活動がPRだと思ってます。ブランディングにちょっと近いけど、PRは認知を広げるための出だしの活動。

―東北でのPRは、東京と違う部分もありますか?

菜央さん:色々と勝手が違うので東京のやり方とは結構違いますね。メディア露出でいうと、地方はメディアの数が少ないし、在京のメディアで掲載されるハードルも高いです。他とは違った機能がついていたり、成分が入っていたり、そういった特徴のあるものがやっぱりメディアに出やすい。そういうのは東京などの大企業が開発していることが多いんですよね。

―雑誌も、東京か大阪か京都の情報ばかりですよね。

菜央さん:そうそう。でも、やっぱり都会の方が面白いモノやコトがあふれてるから。メディアも必然的にそっちばかり見ちゃうっていうのはありますよね。

東北の面白さや価値を伝えていきたい

―私も、地元に戻ってきて何か発信しようと思っても、ここだけの特別なものってそんなにないから、難しいなぁと感じています。山も海もどこにでもあるし、人があったかいとか、大体どこもそうだよなって。

菜央さん:差別化はめちゃくちゃ難しいですよね。だけど、かといって価値がないわけじゃない。

―菜央さんが立ち上げたライフスタイルショップ『Magic Products』で扱っているアイテムは東北で作られたものが中心ですけど、どういうところに惹かれて仕入れようと思ったんですか?

菜央さん:そもそも、東京のPRのやり方は地方では通用しないなと思いました。大手メディアに掲載してもらうには、特徴的なものがないと難しいなと。もちろん、東北にも世界的に見て素晴らしいものを作っている会社はあります。そういうところはメディアに紹介されることもあるだろうけど、そこまで行き着かなきゃ価値はないのか、と言ったら絶対そんなことはないじゃないですか。東北にも素敵なものはたくさんあります。なので、PRの場にもなるようなお店をつくっちゃおうと思って、『Magic Products』を立ち上げました。『Magic Products』のインスタを私が頑張って大きくして、たくさんフォロワーがついたら作家さん一人ひとりのことも知ってもらえる。この場がプラットフォームになったらいいなって思ってます。

―作家さんとか職人さんって、良いものを作っていても自分から発信するのが苦手な人が多いイメージがあります。ものづくりに時間をかけてるから、宣伝まで手が回らなかったり。

菜央さん:営業までするのはなかなか難しいですよね。発送作業だって時間がかかるし、管理も大変。なので作家さんに代わって『Magic Products』がそこを担いたいと思っています。ゆくゆくは海外でPOP UPをやって、バイヤーにも見てほしいし。『Magic Products』を通して、東北の作家さんが作ったものを海外でも売っていけたらうれしいです。

東北のブランドや作家さんと話してると、実はもうあまり東京を見ていないんじゃないかって感じるんです。東京は人もモノもブランドもあふれかえってる。でも、世界を見ればまだまだ勝負できる市場がある。小規模でもフランスから声がかかるブランドが東北にあったりするんですよ。日本のものづくりが好きな海外の人って多いと思うんです。『Magic Products』の発展を考えても、海外に打って出たいという思いがあります。

東北をマッピングするカルチャー誌『SPOT(s)』を創刊

―3月にカルチャー誌『SPOT(s)』も創刊しましたね。私もライターとして関われて光栄でした。

菜央さん:最近ふと気づいたんですけど、『Magic Products』のオーナーとしてバイイングもしてるし、WWDは就活で落ちたけど『SPOT(s)』っていう雑誌作ってるし、20代の頃にいろいろ伏線張られてたな、みたいな。

―大殺界を越えて、もう一回人生スタートしてますよね。

菜央さん:どんどん伏線が回収されていってる。『SPOT(s)』も急に閃いたんですよね。日頃から、思いついたこととか違和感を感じたこととかは覚えてるようにしてて、それが積み重なってきたときに「これは雑誌を作ればいいんじゃないか?」って頭に降ってきたんです。東北で暮らしていても東京の情報ばっかりだな。東京まで行かなくても東北にも面白いお店はいっぱいあるし、面白い人もたくさんいるのにな。なんなら、面白い人たちともっと知り合いたい。そんな知り合いが増えたら、その先に何か広がりがあるかも。そんなことを考えてたら、自分で雑誌作ればいいんじゃないか?って閃いて。

しかも、ちょうど雑誌を作れるメンバーがそろってた。パートナーの宇宙さんはカメラマンだし、いわき市で活動してるグラフィックデザイナーの高木市之助さんとも仲がいい。ライターは真耶さんがいるし……笑。

―声をかけていただいて、嬉しかったです。本当に、ちょうど雑誌作りに必要なスキルをもったメンバーがそろってますね。

菜央さん:英訳も入れたいと思ったら、翻訳家のシルヴィアちゃんがいるし。全部そろってんじゃん!って。これはもうやるしかないなって思いましたね。紹介したいブランドや作家さんもたくさん思い浮かぶし。『SPOT(s)』を介して面白い人が集まって、そこでまた新たな繋がりができていったらいいですよね。周りに面白い人が増えたら、自分の生活も楽しくなりそう。

人生のモットーは「人と出会い続ける」

―webじゃなくて紙にしようと思った理由は?

菜央さん:やっぱり紙の雑誌が好きなんですよね。webだと、どんな人でも見れるっちゃ見れるじゃないですか。そうじゃなくて、『SPOT(s)』をいいと思ってくれた人に手に取ってほしい。そんな挑戦ができるのが地方の良さ、田舎の良さでもあるのかな、なんて。

―確かに、東京だとフリーペーパーも、個人で作ってるようなZINEもたくさんあるから、その中で手に取ってもらうってなかなか大変。地方だと、『SPOT(s)』みたいにデザインにも中身にもこだわってるZINEってそこまで多くはないから。

菜央さん:そうそう。それで、同じような感性を持った人たちが、こんなZINEができたらしいよって繋がっていったらいいな、と。

―『SPOT(s)』を出版して反響はありますか?

菜央さん:ありますね。自分で言うのもなんだけど、デザインにも紙質にもこだわってるので、この雑誌が無料なの!?って、驚いてもらえたみたい。山形や秋田のショップにも置いてもらってるんですけど、「めっちゃ丁寧に作ってますね」って反応がすごくいいです。「うちにも置きたい」って問い合わせがきたり、確実に広がってきてるなって感じています。

―最後に、ありきたりですけど今後の目標を教えてください。

菜央さん:「人と出会い続ける」というのが、私の人生のモットーなんです。東北で出会いをどんどん増やしていきたい。『Magic Products』からでも『SPOT(s)』からでもいいので、どんどん新しいことや人と出会っていきたいです。


大人になってから知り合った人とは、当たり障りなく接し、波風立てず、何か不都合なことが起きなければそれでいい。いつの間にか、私もそんなことを考える大人になってしまっていた。菜央さんと知り合って、周りの人との関係を見ていると、腹の探り合いもなく思ったことを正直に伝え合っている。それってなかなかできることではない。なんだか不思議な魅力をもった人だなと思ってはいたが、今回インタビューを行って、菜央さんの周りに人が集まってくる理由がわかったような気がした。だって、人として面白いんだもの。菜央さんが裏表なく接してくるから、みんな腹の中見せちゃうんだろうなぁ。すごい力だよ、菜央さん。

文/遠藤真耶
写真/倉田若菜

草野 菜央(くさの なお)

福島県いわき市生まれ。フリーランスのPRプランナーとして活動しながら、ライフスタイルショップ「Magic Products」やフリーマガジン「SPOT(s)」など多岐にわたるジャンルで活動する。

特筆するなにかがあるわけではないが、とにかく東北が大好き。じっとしていられない性格なのに、インドア派。

 

写真:倉田若菜 Instagram @nanaaa_photo